【読書】「フードテック革命」の感想 (2/2)
前回につづいて「フードテック革命」を紹介します。
[5] 食領域のGAFAは現れるのか
[5-1] キッチンOS
キッチンのソフトウェア化も今後期待されている分野の1つです。キッチンOSとは、キッチンを制御するソフトウェアのことです。
いまはネット上で多種多様なレシピを検索できるようになりました。動画でレシピを解説しているものも多く、昔に比べてだいぶ分かりやすくなりました。ですが、実際の調理はまだ人間が行っています。しかし、キッチンOSが組み込まれたIoT家電を使うと、調理までソフトウェアが行うようになります。
キッチンOSのメリットは、食材に応じて適切な調理を行うことができることです。人間では難しい火加減や時間の調整も正確に行えます。また、個人の好みに合わせた調整も行いやすいこともメリットです。
ゆくゆくは小売と合わさり、レシピの選定、食材の購入・配送、調理までが、一連の流れで行える未来が来るかもしれません。
[5-2] 食のデータ化
より重要なのが食のデータ化です。FANNG(FacebookやAmazon)が台頭した大きな理由が、個人データの収集と活用です。食にもデータ化の波が来るとされています。
今までは、誰がいつどこでどの食材を買ったかは分かっても、いつ何をどのように調理して食べたかまでは分かりませんでした。しかし、調理するのがキッチンOSであれば、誰がいつどの料理を食べたのかが分かります。
これらのデータを駆使すれば、個人に合わせたレシピを提案し食材を売るといったことも可能です。これはNetfrixのレコメンド機能や、Facebook広告の最適化に近いことです。食の世界でもマス向けから個別最適化が進む可能性があります。
さらに、個人の健康情報も組み合わせるとより大きな威力を発揮します。個人の体質や健康に合わせたレシピの提案も可能になります。いずれ、食業界のGAFAが出現しても不思議ではありません。
[6] 外食産業のアップデート
外食産業は新型コロナウィルスの影響を大きく受けました。ただ、コロナ以前から人手不足や労働生産性の低さといった構造的な課題は指摘されていました。
これらの課題を解決するフードテックとして注目されているのが「フードロボット」「自販機3.0」「デリバリー&ピックアップ」「ゴーストキッチン&シェア型セントラルキッチン」です。
[6-1] フードロボット
フードロボットと一言で言っても様々な種類があります。調理、盛り付け、店内の洗浄、配膳など支援範囲は広いです。
調理ロボットの代表例は、Creatorのハンバーガーを自動で作り上げるロボットです。顧客・店側双方にとってメリットがあります。1つめは、注文を受けた後で食材を切るところから調理を始めるので新鮮なこと。2つめが、顧客一人ひとりの細かい注文に応えられること。店側としては、調理をロボットに任せるため、人間を接客に注力でき、かつ、人件費も削減できます。実際に、このロボットが作ったハンバーガーは6ドルという低価格で提供されています*2。
それ以外のロボットには、パンを自動で製造するロボット、たこ焼きロボットがあります。
[6-2] 自販機3.0
ペットボトルや缶飲料の自販機は日本全国に普及しているが、筆者によればそれらは自販機1.0だと言います。自販機2.0は、カップ型コーヒーのような、砂糖やミルクなど調整できるものを指します。
そして、自販機3.0は小型の無人レストランとも言えるもの、例えば出来立てのラーメンやカスタマイズサラダを提供できるものを指します。当然、スマホアプリを介して注文が行われます。
代表例が米Chowboticsのカスタマイズサラダ製造マシン「Sally」です。
Sallyは空港、大学、病院など街中ほど食事環境が整っていない場所に設置されています。同様に、白Albertsのカスタムスムージー自販機は、有事の際のミール提供ツールとして活用されています。
新型コロナ禍で忙しい医療従事者にも栄養価の高い食事を提供可能ということで、海外では医療機関への設置が増えています。
[6-3] デリバリー&ピックアップ
Uber EatsやGrubhub, Deliveroo, DoorDash、日本では出前館など数多くの企業が参入している分野です。これらは自宅やオフィスまで配送するデリバリー型サービスです。
一方、ピックアップ型サービスは、料理が出来上がったタイミングでユーザーが決められた場所に取りに行く(ピックアップする)方式です。
いまはデリバリーの方が勢力を拡大しています。ただ、手数料が高く、飲食店側の負担が大きいという問題も出ています。新型コロナ禍の影響で、デリバリーはより拡大していくと思いますが、その過程で議論されていくでしょう。
[6-4] ゴーストキッチン&シェア型セントラルキッチン
いままで調理の集約化は、セントラルキッチンが主流でした。1箇所で集中的に調理し生産性を向上させ、かつ、品質を確保できるというメリットがありました。レストランチェーンなどが取ってきた方式です。
しかし、デリバリーが増えてきたり、調理自動化が進みつつある中で、シェア型セントラルキッチンが増えてきていました。シェア型キッチンはUber Eatsなどのデリバリーする側にも、料理を提供する店側にもメリットがあります。
デリバリーする側は、1件ずつ店舗を回る必要が無くなります。店側はデリバリー用の設備やキッチンを持つ必要が無くなります。
デリバリーがより普及していく中で、店舗を持たないデリバリー専門のレストランが出てきました。そうしたデリバリー専門レストランを束ねて調理を担うのが、ゴーストキッチンです。最近では、デリバリーする側がゴーストキッチンを構えるケースが増えています。
新型コロナウィルスの影響もあり、日本でもデリバリー専門の店が増えています。ゴーストキッチン、シェアキッチンは今後も増加していくでしょう。
終わりに
「フードテック革命」は読み応えのある本でした。まだまだ紹介できていない内容が沢山あります。昨今のフードテック事情を余すことなく盛り込もうとしている感がスゴく感じられました。
また、日本はフードテックで遅れを取っていることもあり、それを改善していきたいという思いも伝わってきました。いまは遅れを取っていてもポテンシャルはある、すでに動き出している企業もあるということが紹介されていました。
今後、フードテックの波は日本にも間違いなくやってくるでしょう。食はすべての人に関わる事柄なので、本書で最新のフードテック事情を知って損はないかと思います。