どこにでもいる30代SEの学習ブログ

主にプログラミング関連の学習内容。読んだ本の感想や株式投資についても書いてます。

【読書】金だけで人が仕事を続けられないことは100年前から分かっていた

仕事をする目的の一つは収入を得ることです。もちろん万人がそうというわけではなく、仕事を生きがいとしている人や、既に働かなくてもいいだけの資産を築きあげた人もいるでしょう。例外をあげればキリがありませんが、多くの人は程度の差こそあれ金銭目的に仕事をしているでしょう。生活するためには金銭が必要です。

では金銭目的だけで辛い仕事ができるかと言えば、そうでもありません。働かなければ明日が来ない状況だとしたらできるかもしれませんが、大抵の人はそうではないでしょう。人が金銭目的だけでは働けないことは、100年近く前に分かっていました

「マンガ 経営戦略全史 確立篇」では、20世紀初頭以降の経営戦略をマンガで紹介しています。人が金銭目的だけで働けないことも本書で紹介されていた内容の一つになります。テイラーやドラッガーといった、後世に名を残した人達の成果とエピソードが紹介されています。

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T型フォードが豊かな大衆を生み出した

自動車が発明されたのは1,885年です。当時はまだ非常に高価であり、お金持ちしか買えませんでした。今は誰でも買える時代になっていますが、発売当初は違いました。1,900年の平均世帯年収は750ドル、自動車の価格は3,000ドル以上でした。

フォードは1,903年に設立されました。試行錯誤を重ねた末、1,908年にT型フォードを950ドルで販売開始します。それでも創立者のヘンリーフォードはまだ高いと感じており、さらなる低価格化を目指します。

低コストと高い信頼性を実現するために「作業の標準化・マニュアル化」を導入しました。それまで熟練工が行っていた作業を、単純作業に分割しラインで組み立てる方式です。今ではよく知られた自動車のライン生産方式は、この頃は当たり前ではありませんでした。

効率的な大量生産システムを確立した結果、1,925年には260ドルで販売するに至りました。このときの平均世帯年収は2,000ドルだったため、年収の8分の1で自動車が買えるようになりました。

自動車は大衆の足となりました。郊外に一軒家を立てて自動車で通勤する「豊かな大衆」が誕生しました。

人は単純作業に耐えられない

フォードの工場は金銭面で非常に好待遇でした。日給5ドルであり、夫婦共働きであれば3,000ドルの年収になりました。平均の1.5倍の年収です。そのため就職希望者が殺到したものの、高い離職率となってしまいました。

理由は単純作業でした。タイヤフレームに鉄輪をはめる工程は、一人がタイヤフレームと鉄輪を重ね、もう1人はそれをプラスに挟んで一体化します。そのペースは4秒に1回、1日8時間で7,000回に及びました。

機械的な単純作業に多くの人は耐えられませんでした。経済的動機(高収入目的)の限界が、世に明らかになりました。

エイトン・メイヨー

エルトン・メイヨーというオーストラリア出身の学者がいました。メイヨーは1,923年、アメリカ・フィラデルフィアの紡績工場での調査を依頼されました。紡績部門の離職率が他部門に比べてとても高いため、原因を探ってほしいという内容です。

原因はフォードの工場と似ており、「単純さ」と「孤独さ」からくる精神疲労でした。そこで、メイヨーは休憩時間の導入を提案しました。具体的な内容は工場の人達が議論して、1日4回10分ずつの休憩をとることに決まりました。数ヶ月後、離職率は250%から5%程度まで低下し生産性も向上しました。

ホーソン実験

1,927年、メイヨーは電話機製造会社ウェスタン・エレクトロニックのホーソン工場で実験に取り組みました。最初は照明の明暗と作業効率の関係の実験でした。それまでは照明が明るいほど作業効率が上がるとされていました。結果は予想していなかったもので、照明を明るくしても暗くしても作業効率が上昇しました。

続いて、リレー組み立て作業の女工100人の中から6人を選んで実験が行われました。賃金、休憩、軽食、部屋の温度・湿度といった労働条件を変更し、生産性との関係が調査されました。この実験も予想外なことに、労働条件がどのように変わろうと生産性が上がり続けました。6人に選ばれたことによるプライドと連帯感が、労働条件に打ち勝ちました

さらに、従業員に対する大規模な面接調査が行われました。最終的に工場全体の2万人以上にまで調査が及びました。面接は途中から現場マネジャーが行うようになり、面接も自由に会話する雑談のようなものに変わりました。結果は意外なことに、面接をしただけで生産性が向上しました。従業員は話しているうちに自分の不満が根拠のあるものなのか自ら理解し、現場マネジャーは聴くうちに部下たちの状況を把握し対処することで自らを高めていました。

メイヨーの結論

メイヨーは様々な実験から以下の結論を得ました。

  • ヒトは経済的対価により、社会的欲求の充足を重視する
  • ヒトの行動は合理的でなく感情に大きく左右される
  • ヒトは公式な組織よりも、非公式な組織に影響されやすい
  • ヒトの労働意欲はゆえに、客観的な職場環境の良し悪しより、職場での人間関係に左右される

終わりに

仕事にやりがいを求める人が増えたと言われていますが、人は昔から金銭以外の目的も求めていたわけです。テクノロジーの発展もあり生活は豊かになっていますが、すぐに慣れて満足できなくなるのが人間なんだなと感じます。

T型フォードが販売される前の時代は、フォードの工場と比較にならないくらい労働環境が悪いものでした。それに比べて単純作業で8時間労働というのは好環境だったのですが、豊かさを知ってしまった人達には耐えられなかったのです。歴史は繰り返すと言いますが、昔も今も人間の本質的な部分は変わらないと感じるエピソードでした。

出典