【読書】老化・長寿研究の現在
前回に引き続き「LIFE SPAN」の自分用のメモとしての要点まとめです。
https://predora005.hatenablog.com/entry/2021/08/09/190000predora005.hatenablog.com
前回は第1部-過去、これまでに分かっている老化の仕組みについてでした。第2部は現在です。現在といっても少し先の未来も含まれます。
老化に効く薬・成分については、私は半信半疑です。現時点では信じるでもなく否定するわけでもないというスタンスです。
面白かったのは少し未来の話で、第6章後半と第7章の内容です。老化治療が発展した先にある課題・倫理的問題が興味深かったです。細胞リプログラミングや臓器移植のドナー問題など。科学技術でブレイクスルーが起きる際に発生する倫理的問題や法整備、議論の必要性は、AIや自動運転と同じだと感じました。
また、第4章 : 長寿遺伝子を働かせる方法については素直に賛同できました。老化・長寿との関係は置いとくとしても、純粋に健康のために良いと思いました。
第2部(現在)
第4章 : 長寿遺伝子を働かせる方法
食事量を減らすと長生きする
間欠的断食
- 食事を抜く期間を周期的に差し挟む
- 朝食を抜いて遅い昼食を取る(16:8ダイエット)
- 週に2日はカロリーを75%に減らす(5:2ダイエット)
- 週に2,3日は食物をいっさい摂らない(イート・ストップ・イート法)
アミノ酸を制限する
- アミノ酸を摂取しないと人間は死ぬ。肉類には9つの必須アミノ酸がすべて含まれるエネルギー源だが代償を伴う。
- 動物性タンパク質に偏った食生活は、心血管系疾患による死亡率と癌の発症率が共に高まる
- 特に加工した赤身肉は発癌性が高いことが指摘されている。
運動する人ほどテロメアが長い
- 運動がテレメアの短縮を遅らせる。
- 運動とは体にストレスを与えること。運動をするとNADの濃度が上昇しサバイバルネットワークを作動させる。
- エネルギーの産生量が上がり、筋肉は酸素を運ぶ毛細血管をさらに増やすようになる。
- 新しい血管をつくらせ、心臓や肺を健康にし、体を丈夫にし、テロメアを長くする。
必要な運動強度
- 週に4〜5マイル(約6.5〜8km)走るだけでも、心臓発作で命を落とすリスクが45%減り、全死因死亡率が30%下がる。
- 健康を増進する遺伝子を一番多く活性化したのは「高強度インターバルトレーニング(HITT)」。HITTは高強度な短時間の運動と休憩を繰り返す。
寒さに身をさらして長寿遺伝子を働かせる
- 体温を一定に保てる環境の温度範囲を「熱的中性圏」と呼ぶ。この範囲から外れるとサバイバル回路が動く。とりわけ気温が低いときに顕著に現れる。
- 体の深部体温を下がる。これはカロリー制限をしたときにも見られる。
- 深部体温が下がることで褐色脂肪細胞が活性化する。
第5章 : 老化を治療する薬
イースター島に由来するラパマイシンの長寿効果
- 1960年代、モアイ像の下の土から新種の放射菌を発見した。その菌は抗真菌生の化合物を分泌することが判明した。その化合物はラパマイシンと名付けられた。
- ラパマイシンには強力な免疫抑制機能があることが分かった。臓器移植の拒絶反応を抑えるのに使われるようになった。
- 臓器移植とは別に、寿命を延ばす働きももつ。ラパマイシンはmTOR(高齢の父親をもつマウスで活発になりすぎるタンパク質)の働きを抑える。
糖尿病治療薬として手頃な価格で処方されるメトホルミン
- メトホルミンは世界で広く使われており安価。副作用も胃部の不快感と比較的低い。
- メトホルミンもラパマイシンと同様にカロリー制限に似た効果が現れる。
- ラパマイシンと異なりTOR阻害ではなく、ミトコンドリアの代謝反応を制限する方向に働く。制限によりAMPKという酵素が活性化し、ミトコンドリアの機能を回復させる。
- メトホルミンは癌の羅患率を下げるという研究結果がある。
サーチュインを活性化させる化学物質
- レスベラトロールは様々な植物がストレス時に生み出す天然の分子。赤ワインにも含まれている。
- 健康増進に役立つ様々な分子とその誘導体は、ストレスを受けた植物によって大量に作られる。
サーチュインの燃料となるNAD
- NADはサーチュイン活性化化合物(STAC)。NADはほかのSTACにはない利点がある。7種類あるサーチュインすべての活動を高めてくれる。
- 人間を対象にして、NAD濃度を高める様々な分子を使った研究が進められている。
第6章 : 若く健康な未来への躍進
老化に対する未来の選択肢
- 老化細胞を除去する
- レトロトランスポゾンを封じ込める
- 免疫系を活用するワクチンを使う
- 細胞のリプログラミング
老化細胞を除去する
- 老化の典型的特徴の1つが、老化細胞の蓄積。
- 人間の体が老化細胞を始末しない理由。一説には30,40代でがんにならないための予防策としての進化と言われている。老化細胞とは分裂しない細胞。がんで遺伝子が変異しても細胞が増殖して腫瘍を形成することがない。
- セノリティクスと呼ばれる老化細胞除去薬が期待されている。
レトロトランスポゾンを封じ込める
- ゲノム全域を移動することができる可動生のDNA配列をレトロトランスポゾンと呼ぶ。
- レトロトランスポゾンとそれが移動したことを示す痕跡が、ヒトゲノムの約半分を占めている。この領域はジャンクDNAと呼ばれており、遺伝子のお荷物とされている。
- 若いときはサーチュインによりレトロトランスポゾンを封じ込めている。
免疫系を活用するワクチンを使う
- がんの免疫療法の一つが免疫チェックポイント阻害療法。がん細胞の隠れ蓑を剥がし免疫系のT細胞がそれを見つけて破壊できるようにする。
- がんと同じことを老化細胞でもできると考えられている。
細胞のリプログラミング
- 細胞のプログラムを初期化して、最初の状態に戻す。
- 老いたDNAであっても、再び若くなるための情報を保持している。
- 4つの遺伝子が成熟細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞)に変える。
- 4つの遺伝子を若返りに使用するには未だリスクが高い。マウスの実験では奇形種の発生、腫瘍細胞ができる結果になることも多い。
- マウスの視神経性を再生させ、高齢マウスの視力に成功するという結果も得られている。視神経(脊髄神経などの中枢神経)は生まれ変わらない限り再生しないとされていた。
リプログラミング技術の倫理的問題
- 誰に対してこの技術の使用を許すか(富裕層、重病患者、末期患者等)
- 何歳でリプログラミングが行われるべきか
- 老化することを選ぶ権利もすべての人に与えるべきか
第7章 : 医療におけるイノベーション
個人に特化した精密医療
- いまの医療は、ほとんどの場面でほとんどの人に効果を発揮する方法であり、ほとんどはすべてではない。人によっては間違った医療が施され、かえって状態を悪化させる恐れもある。
- 新しいオーダーメイドのがん治療法も夢ではない。
自分の遺伝子を知ることで可能となること
- どんな病気にかかりやすいか、長生きするためにどんな予防策を講じればいいかがわかる
- 遺伝子が異なれば薬への反応も異なる。その人に適した薬の処方が可能となる。
センサーの活用
- パーソナル・バイオセンサーの時代が迫っている。すでにセンサー付きウォッチが心拍数を記録したり睡眠サイクルを測定したりする。血糖値や血液細胞のモニタリングも非常に簡単なっている。
- バイオモニターにより、何を食べればよいか、いつどれだけ運動すればよいかといった生活習慣の決断を助ける
- バイオトラッキングは突然死を防ぐのに役立つ。
- バイオトラッキングには、個人情報を明け渡すことへの懸念がある。得られる価値とリスクとを鑑みた選択は個人による。
ワクチン開発のミニ・ルネサンス
- 過去100年の間に寿命と健康寿命が伸びた背景には、ワクチンの影響がきわめて大きかった。
- ワクチンを製造するのは企業。資金不足によりワクチン製造が終了することもある。
臓器移植のドナー問題
- 臓器移植の元となる臓器の多くは、自動車の交通事故死亡者が主な供給源となっている。
- 自動運転の実現により自動車事故が減少すると、臓器移植に必要な臓器はより一層足りなくなる。
- 異種移植(例えば、人の臓器をもつ豚を育てる)、臓器印刷の実現が期待されている。
出典
アイキャッチはMichal JarmolukによるPixabayからの画像